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あるまじろの読書日記

「なぜ、本を読むんだい?」「そこに本があるからさ!」興味のあるテーマは歴史とサイエンス。アラサー。関東在住。文章力が低く時折エラそうな書き方になりますが、どうかご容赦ください。( ̄ー ̄;

横井軍平ゲーム館

               

トランプや花札などを作っていた任天堂を、「世界の任天堂」にした立役者の一人、横井軍平の事績を綴った本だ。本書は、ここ1年で読んだ本の中では1番面白かった。

横井軍平は、同じ任天堂社員でマリオシリーズの生みの親である宮本茂や、後に任天堂の社長となる岩田聡と同じ、ゲームクリエーターである。しかし、横井は後者二人と決定的に違う点がある。横井は、ゲームウォッチゲームボーイなどのデジタルゲームのクリエーターでもあったと同時に、ウルトラハンドや光線銃、テンビリオンのようなアナログゲームのクリエーターでもあった点だ。

最近は「ゲーム」と言えば即「デジタルゲーム」を指すが、横井軍平の指す「ゲーム」は「遊び」だった。今の任天堂は「デジタルゲーム」の会社だが、横井がいた頃の70年代~80年代の任天堂は「遊び」をビジネスにする会社だった。

多角経営に失敗し苦境に陥っていた任天堂の中で、ヒマを持て余していた横井を見出したのが当時の山内社長だ。そこから世界の任天堂の歴史は始まったと言っていいだろう。

横井は上述のようなアナログ玩具のヒット作品を生み出し、任天堂成長の原動力となった。時折失敗作も出したが、ゲームボーイゲームウォッチなどの大ヒットによって大幅に利益を生み出した。

横井の発想は、遊びの本質を追及することに尽きた。「面白い」とはどういうことか、「遊び」とは何かを、ユーザー目線に立って考え続けた。こうして横井が生み出した商品には、必ずしも最先端技術が使われてはいない。既にある古い技術やアイデアを組み合わせて新しいものを生み出すのが横井のスタイルだった。いわゆる「枯れた技術の水平思考」である。(そもそも、当時の任天堂には最先端技術を取り入れる潤沢な資金もなかっただろうが)

横井がヒット商品を生み出すと共に任天堂は急成長し、ファミコンブームと共に世界の任天堂になった。ちなみに、横井はファミコンの「十字キー」の考案者だそうである

ファミコンブーム以降、任天堂デジタルゲームに特化したゲーム会社になっていくが、ニンテンドー64の発売の頃には、横井は任天堂を退社した。横井は、グラフィックや性能の進歩などの競争に陥っていたゲーム業界を快く思っていなかったようだ。後に任天堂wiiのような商品を生み出すが、それは不毛な開発競争を避け、横井の言う「遊びの原点」に帰り、面白さを追求した結果だったのかもしれない。

横井はプログラミングが出来たわけではないし、天才的に技術に明るかったわけでもない。しかし、遊びの本質を誰よりもよく理解し、アイデアで勝負するタイプだった。そして、自分に出来ないことは人に任せ、楽しんで仕事ができるチームを作る達人だったという。こういう人材は今少ないだろう。

現代のゲーム業界の現実を横井はどのように見るだろうか。スマートフォンのゲームなどは、「枯れた技術の水平思考」と言えないこともない。しかし、投入する金額の多寡でゲーム内容が左右されるというシステムや、猫も杓子も同じような萌えキャラクターで釣る安易な手法には、「アイデアがないね」と一刀両断しそうな気もする。これならパチンコやスロットと同じだ。

自分自身も、子供の頃はファミコンゲームボーイで遊んだ世代だ。しかし、最近のゲームには全く興味がわかない。大人になったからとか、時代が変わったということもあるだろうが、それだけではないような気もする。
結局、今新しく出ているゲームの大半は、今の大人世代が小さい頃どこかでプレイしたゲームと大差ないのだ。性能は向上していても、ゲーム性の部分では変化していない。だから若い子には多少受けたとしても、TVゲーム全盛期に遊んでいた世代には全く目新しさを感じない、ということなのだと思う。

結果として、ビジュアルに訴える萌えキャラやアダルトな要素、中毒性を生み出す課金システムに頼らざるを得ない。そしてゲーム内容にかけるコストは少なくなる。それでも売れている内はいいが、こんな単純なやり方では後発や類似がどんどん出てきてレッド・オーシャンとなり、淘汰されていくだろう。

こんな時、横井軍平ならどんな商品を生み出しただろうか。恐らく、「遊びの原点」に帰ったゲームを作り出すだろう。これは予想にすぎないが、最先端技術を使わず、少し前に流行った「人狼ゲーム」のように、シンプルだが楽しめるアナログゲームを作っていたのではないだろうか。

横井の発想は、今でも決して古くなっていない。「最先端よりも本質」という思考は、生き残りをかける中小企業にとっても金言となるだろう。No1の技術を持っていなくても生き残り、勝ち抜くことは可能なのだと教えてくれる。色んな人にオススメしたい、素晴らしい本である。