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あるまじろの読書日記

「なぜ、本を読むんだい?」「そこに本があるからさ!」興味のあるテーマは歴史とサイエンス。アラサー。関東在住。文章力が低く時折エラそうな書き方になりますが、どうかご容赦ください。( ̄ー ̄;

中国五千年

              

昨年亡くなられた故・陳舜臣さんの著書。小説ではなく歴史書である。上下二冊で中国の伝説の時代から現代までを大まかに知ることができる。執筆に当たって何年もかけて準備してきたことがうかがえる質の高さで、最初から最後まで楽しみながら読み進められた。

中国の歴史の面白いところは、今でも使われている故事成語や言葉の由来となったエピソードがたくさん含まれていることだ。「馬鹿」や「完璧」といった日常よく用いられる言葉のエピソードを知るたびに、ある種の感動が得られる。この点においてヨーロッパ史とは違った面白さがある。そうした面白さも、本書の中には盛り込まれている。

国史の特徴は農民や庶民の活躍場面がとても多いところにあると思う。漢の高祖劉邦は農民出身だし、明を興した太祖朱元璋なども貧農の出身である。また、反乱を指揮し皇帝を名乗った唐の黄巣は闇商人だし、明の李自成、清の洪秀全なども農民の出身だ。王朝の混乱期に多いが、低い身分からの成り上がりも多く見られる。最も、人間的にはかなり酷い人物も多いが。

その中で私がこっそり評価している人物が秦代末の陳勝だ。彼は国史上初の農民反乱である「陳勝呉広の乱」の指導者として知られ、高校の世界史の教科書にも登場する。この陳勝という男、貧しい日雇い農夫で、学問もなく、さらに器量も狭く、世間的にはあまり評価の高くない人物だ。活躍の場面も少なく、伝記にもならない。

しかし、彼は1つの大仕事を成し遂げたと思う。それは、それまでの既成概念を打ち破ったことだ。そもそも秦以前の戦国時代や周の時代には農民が一国の打倒に立ち上がるなどということは無かった。不満があればせいぜい逃亡して山賊となるくらいで、農民が軍隊に挑むなどということは無謀で、思いもよらないことだったろう。

陳勝は初めてそれをやった。豪雨のためとはいえ、工事の到着期日に遅れるという、秦の法律では死刑間違いなしの状況に追い込まれた陳勝。しかし、むざむざ死ぬのを潔しとせず、同じく工事に遅れた仲間900人と共に、何と秦の打倒に立ち上がった数十万の精強な軍を有する秦にたった900人で挑んだのである。仲間を説得する際に用いたとされる言葉が有名な「王侯将相いずくんぞ種あらんや(王や将軍になるのに身分の違いがあるものか)」である。言葉として品は無いが、ストレートで好きである。

陳勝が蜂起すると、秦に不満を持っていた人々(劉邦など)が一斉に蜂起して陳勝の下に駆けつけ、あっという間に数万の大勢力となった。大事なことは、もし陳勝が捨て身の行動を起こさなければ、その後の劉邦らの蜂起もあったか分からないという点だ。最初に道を切り開いた者の存在というのは、それくらい大きなものだと思う。

陳勝は一時は王を称するまでになるが、最終的には秦の討伐軍によって鎮圧されてしまう。その後、後を継いだ劉邦項羽らの活躍によって秦は滅亡する。日雇い農夫の身で秦に反乱を起こし、王となり死ぬまでわずか6ヶ月。失敗はしたが、それまでより遥かに充実した6ヶ月を過ごした陳勝はきっと満足しているだろう。

凡人が覚悟を決めると、時に大仕事を成し遂げる