あるまじろの読書日記

「なぜ、本を読むんだい?」「そこに本があるからさ!」興味のあるテーマは歴史とサイエンス。アラサー。関東在住。文章力が低く時折エラそうな書き方になりますが、どうかご容赦ください。( ̄ー ̄;

自助論

              

イギリスがEU離脱問題に揺れている。果ては国内分裂騒動にまで発展している。恐らく外部の人間には理解できない事情もあるのだろう。EU圏から距離を置くことがイギリスにとって良いか悪いかは長期的に見ないと何とも言えず、評価することはできない。しかし、ニュースサイトで見かけたあるイギリス人の言葉だけが気にかかった。すなわち「移民によって私達の仕事が奪われた」という言葉である。

2、300年ほど昔のイギリスは間違いなく世界最強の国家であり、優秀な人材を多数生み出していた。物理学の世界を変えたニュートン、製本屋の徒弟から当代最高の化学者となったファラデー、電磁気学を確立したマクスウェル、炭鉱で働きながら夜間学校で算数や読み書き(!)を学び、後に蒸気機関車の父と呼ばれたスチーブンソン、経済学の礎を築いたアダム・スミスなどは、みなイギリス人である。アメリカに植民していったフロンティア精神あふれる人たちも元々はイギリス人だ

彼らに共通することは、本書のテーマでもある、誰かの支援に頼ることなく向上心をもって日々努力する「自助の精神」だろう。「天は自らを助くるものを助く」という言葉をそのまま実践していたのが当時のイギリス人だったのだ。「今日できることを明日まで延ばすな」という名言を残したイギリスの政治家チェスターフィールドも、自制心を持って忍耐強く努力することの大切さを説いている。

これらの精神は本書を通じてイギリスから日本にも輸入され、日本でも100万部が売れたという。恐らく当時の日本人の精神に通じるところがあったものと思われる。

もちろん、当時のイギリスにも問題がなかったわけではない。特に有名なのは産業革命の頃に起こったラッダイト運動である。ラッダイト運動とは、産業革命によって機械化が進んだため仕事を失った労働者達による機械打ちこわし運動である。要は「機械によって私達の仕事が奪われた」ということだ。当時の労働者階級は教育を受ける機会もなかった人たちが多いので、気持ちとしては分からなくもない。結局、機械化の流れは止まることはなく、労働者達自身が変化して機械に適応していくしかなかった。

機械化によって仕事が奪われるのも、移民によって仕事が奪われるのも、本質的に違いはなく、単純労働がコストと効率性の問題で代替されるようになったにすぎない。こうした失業は歴史上必ず起こっており、その度に人々は変化し適応していったのである。職業訓練の仕組みもスキル向上と適応を促すためにある。こうした社会の流れに逆行することはムダだし、一国の政府の力で変えられるものではない。

昔と比べれば階級社会は崩れてきているようだし、イギリスには世界初・世界最高レベルの通信教育大学であるオープン大学があり、学ぶ機会はかなり恵まれている。(日本の放送大学オープン大学をまねてつくったもの)ましてやイギリス人には英語という最強の武器があるため、アメリカやカナダの大学に進学したり、働きながらアメリカの名門大学のオンラインコースを受講することも可能だ。ネット上の情報や書籍も質の高いものは英語が多い。これは相当な強みだと思う。

そんな世界最高クラスの環境にあるイギリス人が、公用語が英語でない中東欧からの移民に仕事を奪われたと嘆いていることが残念でならない。そもそも現代の失業問題は政府の政策で完全解決できるわけではなく、自分自身の力で確保していくしかない。まさに「自助の精神」だが、それがイギリスから失われている証だと思う。移民問題EU離脱問題の行方よりもむしろそちらの方が気になった。

本書の訳者である竹内均さんも巻末で、イギリスから自助の精神が失われており、いわゆる「成熟病」にかかっていると指摘している。イギリス人は自分達の国で書かれたこの名著を読み返すべきなのではないだろうか。

ちなみにファラデーは高等教育を受けることができず、勤めていた製本屋にあったわずかな本を何度も繰り返し読んで化学を勉強したそうだ。僕はファラデーを尊敬する。